トクする!栄太郎のブログ

特許、人柱としての報告や瞑想、たまに生命保険などなど、トクする情報を発信します。

【特許】先行技術文献の図面のみで拒絶する拒絶理由通知書を受け取ったらどうすればよいか?

たまには特許の話題を書かないと…。

 

 

今回は、拒絶理由として先願の図面のみをもって拒絶された場合を考えたいと思います。

f:id:m-eitaro:20180513164736j:plain

 

前置き

もし、拒絶理由通知書に、

「本願発明は、引用文献1の図1に書かれているものと同一であると見て取れるので、新規性なし」

と言うような拒絶理由があったらどうしますか?

さらにカチ~ンと来ることに、その引用文献1には、その図面の肝心の部分に説明がないとしたら!

「オイっ!それって偶然そんな図面になったのかもわからないじゃん!」

って言いたくなりますよね。


スポンサードリンク

 

結論から言いますが、わりと心強い判例があります。

 

パテントメディア92号より引用

引用が長くて心苦しいのですが、解説された方の説明がわかりやすいので、引用しました。

例えば、「平成8年(行ケ)第42号 審決取消請求事件

 本願発明「特開昭60-201890、特開昭61-77561」で、引用文献は「特公昭47-24568号」です。

本願発明の図面

f:id:m-eitaro:20180513191124p:plain

一対のくさびシューが問題の部分だそうです。

私は門外漢でよくわかっていませんが、これが、「中心線に49~51度の角度かまたは53度の角度で交差する面で外方に傾斜された予定のテーパ部分を有している…一対のくさびシュー」というのが特許請求の範囲のキモのようです。

対する引用文献の図面

f:id:m-eitaro:20180513192323p:plain

よく似ています。

そして、この図面のくさびシューのテーパ角度も図面上同一であると認定されました。

そして、審判で負けて審決取消訴訟をかけたようです。

 

裁判所の判断

判決では、次のように判断されました。
「引用例の図面に描かれているくさびシューがたまたま約50度ないし約55度のテーパ角度を示していることを捉えて、引用例には引張装置のくさびシューのテーパ角度を約50度ないし約55度に構成する技術的思想が開示されているということはできない

 

そして、この結論を導くために、次のように述べています。

 

(イ)「引用例には、くさびシューのテーパ角度の数値を限定することについての技術的意義も、実施例を示す図面に記載された上記角度についても、全く記載されていないことが認められる。
以上のような引用例の記載によれば、引用例記載の発明の目的が、専ら本願発明の要旨にいう「圧縮可能な緩衝要素の改良にあり、くさびシューを含む「摩擦緩衝部材」の改良でないことは明らかである。したがって、引用例記載の発明の実施例として描かれている別紙図面BのFIG.1、FIG.3あるいはFIG.11のくさびシューのテーパ角度が、問題意識をもって正確に記載されていると考えることはできないそもそも、特許願書添付の図面は、当該発明の技術内容を説明する便宜のために描かれるものであるから、設計図面に要求されるような正確性をもって描かれているとは限らない

(ロ)「もっとも、引用例に開示された技術的事項は、本出願当時の技術水準を背景として当業者において認識し理解するところに基づいて判断されるべきものであるから、本出願当時、引張装置のくさびシューのテーパ角度を約50度にすることが当業者に広く知られた技術的事項であれば、引用例にその角度について格別の記載や示唆が存しなくとも、当業者はその図面から引用例記載の発明においてもその角度を約50度に設定していると認識するといえるが、本出願当時の技術水準を上記のように認定することのできる証拠は存しないから、この点から引用例にはその角度を本願発明と同一の角度としたものが開示されているということはできない

このような判例がありました。

 

ココから解ることは

この判例は非常に示唆に富んでいます。

簡単に言うと

1.引用文献の図面だけに本願発明の特徴部分が現れていても、チャンスがあるかも?

2.例えば、発明の課題とするものが異なれば、 「そもそも、特許願書添付の図面は、当該発明の技術内容を説明する便宜のために描かれるものであるから、設計図面に要求されるような正確性をもって描かれているとは限らない」という主張が出来るかも?

3.そのためには、「本願出願当時、当業者に広く知られた技術的事項であれば、引用例にその格別の記載や示唆が存しなくとも、当業者はその図面から引用例記載の発明においてもその広く知られた技術的事項を読み取ることが出来る」のですから、「本願出願当時に当業者に広く知られた技術的事項でない」と主張せねばなりません

 

そうです、図面のみから拒絶理由が発送されたとき、単純にそれを否定するだけでは不足なのです。

いくら、「図面のみから拒絶理由が発送された。ケシカラン!」と思っても、それをひっくり返すにはある程度の理論武装は必要です。

とは言え、「そもそも、特許願書添付の図面は、当該発明の技術内容を説明する便宜のために描かれるものであるから、設計図面に要求されるような正確性をもって描かれているとは限らない」というフレーズは意見書の記載として使えますね。

 

結論

先行技術文献の図面のみで拒絶理由通知書を受け取っても、もうワンチャンスあるかもしれないので検討の価値はあります。

 

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。<(_ _)>

面白かったら、読者になって頂いたり、ツイッターでフォローしていただけると嬉しいです。

 


スポンサードリンク