先日届いた特許の拒絶理由通知を見てヒドい内容だったので、紹介します。
初心者のサーチャーが特許検索をしたのに、審査官は疲れていたのか手抜きをしてしまったのが原因のようです。
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特許審査の流れ(前フリ)
特許審査を受けるためには特許出願を行い、その後3年以内に「審査請求」という手続きを取らなければなりません。
じつは特許出願の際に特許庁に支払う手数料は14,000円なのに対し、審査請求料は最低でも122,000円かかっちゃいます(出願人によっては軽減可能)。
この金額には弁理士(代理人)に支払う手数料は含まれていません。
なぜこれが高いかというと、審査に一番人件費がかかるからです。
この審査請求をきっかけに審査が動き出します
審査請求を行うと審査の待ち行列に加えられます
特許庁は審査請求後11ヶ月で最初の拒絶理由通知を発送する目標で努力してきました。そして、これはおおよそ達成されています。
審査の混み具合にもよりますが、
審査請求後6ヶ月位たったとき、その特許出願は特許検索外注に発注されます。
例えば、名古屋市には、
という会社があります。
ちなみに、私はこの「先行技術調査業務実施者(サーチャー)」の資格を10年以上前に取りました。
検索外注では
特許庁の審査官と同等の性能を持つ機器とソフトを使って、特許庁のデータベースに直結で検索を行います。
そして、検索結果を持って特許庁まで行き、審査官と対面して納品を行います。
納品では、
サーチャーは審査官に対して出願の技術説明、検索したときの検索式の説明、見つけた文献の説明と、出願内容の比較を説明します。
審査官はその技術説明と、検索式の説明から、サーチャーが適切に検索したか嗅ぎ分け、納品を受けます。
サーチャーの示した検索式と見つかった文献から、なんか怪しいと思った場合は、サーチャーに追加検索をさせることがあります(その時は特許庁内の端末を使います)。
あとは審査官の仕事です
サーチャーの検索結果を利用して、拒絶理由通知を書いたり、まれに特許査定を書いたりします。
その際に審査官が自ら再度検索することもあります。
今回の案件は(ここから本題)
本願は、バックリと言ってしまえば、
「箱Aとその蓋Bがあって、
箱Aか蓋Bのどちらかが硬質の合成樹脂で出来ており、
その硬質の合成樹脂の部材に対して柔軟な部材Sをインサート成形した」
という内容です。
初心者サーチャーと言う理由
この分野の技術常識を把握していない
例えば、「射出成形のときに使う金型には必ず抜き勾配という傾斜がつけられている 」
というような、その業種の人ならば普通に知っていることを知らないようです。
また、本願の「インサート成形」が何かということを知らなかったようです。
特許請求の範囲が読めていない
「硬質の合成樹脂」で出来ているのは「 箱A」か「蓋B」のどちらかです。
なのにこのサーチャーは「部材S」が「硬質の合成樹脂」で出来ていると勘違いしており、審査官もそれをそのまま拒絶理由通知に引用しています。
これに対して審査官は
納品の際にこのサーチャーが「インサート成形」を知らないと言うことに気がついて、インサート成形の文献を追加検索させたようです。
でも、それで安心しきってしまって、検証を怠ったようです。
トンチンカンな「インサート成形」文献が3つ上がっていました。
審査官がやった追加検索なら、こんな変な文献は上がるはずはありません。
審査官のミスは
1.もう少しこのサーチャーは出来るだろうと実力を見誤ってしまったこと
初顔合わせでしょうから、世間話でもしながら、実力を探るべきでしょうねぇ。
2.追加検索の検証をしなかったこと
せっかくおかしいと直感して追加検索させたのに、チェックをしなかった。
3.審査官自身が本願をちゃんと読んでいなかったこと
疲れていたんでしょうかねぇ。
というわけで
トンデモナイ品質の拒絶理由通知が来たのですが、この穴だらけの拒絶理由通知に喜んで、簡単に対応したとき、審査官が間違いに気がついて検索をやりなおす可能性があります。
そうなると不利益を被るのは当社です。
私も一応サーチャーの端くれですので、検索しました。
10分もしないうちにもっと痛い文献を見つけてしまいました。
とはいえ、この文献が出てきたとしても、まだまだ、充分対応の余地はあります。
本願はしっかりした弁理士さんがついてくれていますので、自分が見つけた文献を合わせて、対応してもらえるように、お願いしました。
ふぅ~!
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。<(_ _)>
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